反逆者

『人類の知的遺産49 バクーニン勝田吉太郎

 バクーニンは、人間に知恵の木の実を食べるように誘惑したサタンを称揚した。サタンこそは、反逆精神の権化であり化身であった。アナーキズムの教説の核心は、こういう評言のうちにこの上なく明瞭に表現されている。つまりそれは、抑圧に対する憤怒であって、特定の理論的・イデオロギー的信条から発して理性的な反省を経た上での行動の綱領ではないのである。換言すると、アナーキストの本領は、革命家というよりもむしろ反逆者たることにある、といってよいであろう。なんらかの主知主義的な革命理論とかドグマとかは、反逆魂の発露という生の躍動にとって、あくまで第二義的な意味しかもたないのである。「反逆は、生の本能である。」――とバクーニンは書いている――「虫でさえ、自分を押しつける足に対して反逆するのだ。……動物の世界においても人間の世界においても、服従と諦観ほど不名誉で愚かしく、卑劣な性質ないし習慣はない。」
 バクーニンにとって、革命とは一切の権威と権力とに対抗する反抗であった。その意味で、上述したように彼は「アナーキイ」をもって「悪しき情熱と呼ばれるものの解放」であり、「公共的秩序なるものの破壊」と見たのである。このようなアナーキストの革命観は、マルクス主義のそれと、精神の内的構造において異質のものであろう。(p15)