侏儒の言葉

侏儒の言葉芥川龍之介

言行一致
 言行一致の美名を得るためにはまず自己弁護に長じなければならぬ。

方便
 一人を欺かぬ聖賢はあっても、天下を欺かぬ聖賢はいない。仏家の所謂善巧方便とは畢竟精神上のマキアヴェリズムである。

醜聞
 天才の一面は明らかに醜聞を起し得る才能である。

矜誇
 我々の最も誇りたいのは我々の持っていないものだけである。実例。――Tは独逸語に堪能だった。が、彼の机上にあるのはいつも英語の本ばかりだった。

天才
 天才の悲劇は「小ぢんまりした、居心の好い名声」を与えられることである。


 「その罪を憎んでその人を憎まず」とは必ずしも行うに難いことではない。大抵の子は大抵の親にちゃんとこの格言を実行している。

企図
 成すことは必ずしも困難ではない。が、欲することは常に困難である。少くとも成すに足ることを欲するのは。