『日本はいかにして中国との戦争に引きずり込まれたか』田中秀雄著

『日本はいかにして中国との戦争に引きずり込まれたか 支那通軍人・佐々木到一の足跡から読み解く』
http://www.sankei.com/life/news/140706/lif1407060012-n1.html

 ■「魔界」で退路断たれた日本

 日本が中国を侵略したという事実は動かし難い歴史として日本人には記憶されているが、果たしてそうか。中国各地に軍勢を張る軍閥、内部抗争を繰り返す国民政府軍、コミンテルンの指示を受けて蠢(うごめ)く共産軍。日露戦争という巨大なコストとリスクを背負って手にした満州での権益を守ろうと国家として当然の生存権を行使する日本に、「四分五裂」の中国は各地方であらん限りの残虐行為をもって挑んだ。これに抗する日本軍は局地戦のほとんどを押さえ込んだものの、全局を収拾することついにかなわず退去を余儀なくされた、というのが歴史の真実ではなかったか。統制がまるできかず軍紀などというものにはおよそ無縁な匪賊(ひぞく)の巣くう「魔界」に引きずり込まれて、そこで退路を断たれたのが日本であった。

 著者は、国民党軍による北伐の開始から日本軍の南京城攻略戦にいたるまでの「日中戦争」の実態を、済南事件、第1次上海事件を目の当たりにし、南京城攻略戦では実戦に参加した一軍人、佐々木到一(とういち)の足跡をたどりつつ、事実に迫る。満州国政府により検閲削除され、かろうじて判読可能な佐々木の文書にこうあるという。

 「吾々同胞はこれを支那民族の残忍性の一面として牢記(ろうき)せねばならぬ。将来と雖(いえど)も機会だにあらばこれを再び三度繰返すものであることを銘肝(めいかん)しておかねばならないと思うのである。弱しと見ればつけ上がり威(い)たけだかになるところの心理は、恐らく支那人を知る限りの日本人は承知している筈(はず)である。これに油を注げば如何なる非道の行為にも発展するものであることを」

 台湾の二・二八事件、モンゴル・ウイグルチベットでの民族浄化文化大革命の「阿鼻叫喚」をみれば、佐々木の予言は的中していると著者はいう。正鵠(せいこく)を射た指摘である。日米戦争に日本を誘い込んで、中国共産革命、朝鮮戦争を帰結させた国際勢力がアメリカである。戦前期日本の不当性を糾弾するあまり、米中の行動を見落としてきた戦後日本のジャーナリズムとアカデミズムへの嘆息が本書の随所から聞こえる。(草思社・本体2200円+税)

 評・渡辺利夫拓殖大総長)