クリントン

『嘘だらけの日米近代史』倉山満

 クリントンの主な世界政策を振り返りましょう。
 北朝鮮空爆できずに核武装を許し、中国重視政策でその膨張を許し、ソマリア派兵をしたものの十九人の死傷者が出た段階でみっともなく逃げ帰って大恥をさらし、スーダンとアフガンへの不用意な空爆アルカイダを怒らせ、イラクへの中途半端な介入で中東情勢をこじらせ、ユーゴ問題への深入りであやうく世界大戦を起こしそうになり、中南米に秩序をもたらしてきたペルーのフジモリ政権を転覆させました。(p153)


 もう一つ、世界の火薬庫といわれるバルカン半島です。…このころ、バルカン半島の複雑な民族問題がこじれにこじれ、マスコミや広告会社のプロパガンダを信じたクリントンがよくわからずにユーゴスラビア(実態はセルビア)に介入を重ねていたのです。…
 この年の三月二十四日、アメリカ率いるNATO軍はコソボ空爆し、セルビアに戦いを挑みます。NATO軍はありったけのミサイルをぶち込み、現地の軍人たちが「もう攻撃目標がない」と嘆く事態になりますが、それでもセルビアは屈服しません。NATOに属するフランスのシラク大統領が米露両国の間を飛び回りますが、クリントン空爆を続けるだけです。
 あまりにも無神経なクリントンに対し、四月九日にロシアのエリツィン大統領は、「核の照準を戻すこともある」と宣言しました。そして六月十二日、プリシュティナ空港でアメリカ率いるNATO軍と、ロシア軍空挺部隊がにらみ合う一触即発の事態となりました。アメリカ人のクラーク最高司令官はロシア軍の進駐を実力で排除しようとしましたが、イギリス人のジャクソン司令官が「君のために世界大戦を起こす気はない」と止めたので断念したという一幕すらあったのです。世界大戦寸前の局面がいくつもあったのです。
 停戦後、セルビア空爆を避けるために地下に隠していた戦車を中心に「戦勝パレード」を行っているのですから、アメリカは何をしたかったのかわかりません。(p155)


 それにしても、世界最大の軍事力を持っているはずのアメリカの、この戦争指導のまずさは何でしょう。クリントンの特徴は、空爆しかできず、地上戦ができないことです。戦争の勝利とは目的を達成すること、戦闘の勝利とは目標を実現することです。戦闘における目標の達成とは、目標となる土地を占領することです。クリントンは地上戦をやらないので、戦闘目標も戦争目的を達成できないということになります。
 クリントンには二つの恐怖感があったといわれます。第一は、就任当初のソマリア派兵の失敗です。この派兵は戦闘直前に匍匐前進している兵士にテレビ局のレポーターがインタビューするという極めて緊張感に欠ける戦いでした。挙げ句の果てに十九人の兵士が迂闊な作戦で死亡してしまい、世論の批判を恐れたクリントンはさっさと撤兵を決断します。何のためにわざわざアフリカ大陸まで軍隊を派遣したのか、意味がわからない結果になりました(この様子を美化して描いた映画が、『ブラックホーク・ダウン』です)。(p158)


 アメリカの軍事力は、破壊力(destructive power)はあるのですが、占有力(occupational power)が極端に弱いのです。クリントン政権空爆しかしない軍事介入は、この弱点がモロに出た格好で、国際秩序を破壊し、世界中の恨みを買っただけでした。ついでに言うと、クリントンの女性醜聞が問題化するたびに世界のどこかの地域を空爆するということを繰り返しました。ボスニアスーダンやアフガンです。(p159)


 精神的自立には、正しい歴史の勉強が最良の処方箋です。そもそも、本書の内容がわからなければ、日本近代史は語れません。他国の前に自分の国の歴史がわからなければ、自立も何もありません。
 民族の生存を最終的に決するのは、歴史認識です。亡国の民となっても、強靭な精神力だけを頼りに復活した民族はいくつもあります。例えば、ポーランドイスラエルがそうです。この強靭な精神力と結束力は歴史認識から発生する自信によるものです。
 その意味でアメリカ史などは、北朝鮮も真っ青の歴史歪曲のオンパレードです。しかもそれをアメリカ国民が信じているから自信につながっているのです。正しい歴史事実など、一握りのスーパーエリートさえ知っていればいいという徹底ぶりです。(p173)