論争の小説――モチーフについて

『人と思想 ドストエフスキー』井桁貞義

 この小説、じつは極めて論争的な小説だった。言い換えれば、ドストエフスキイは処女作において、自分自身の文学的遍歴の一つの決算を提出し、同時にロシア文学のこれまでの発展に対して一つの発言を行おうとしたのだ。(p39)


 このように、『貧しき人々』はきわめて文学的な作品、〈文学についての文学〉といった性格をもっている。言い換えれば、これは〈他者の言葉〉との関係から作られたテクストであり、ここで複数のテクストが出会い、対話している。これはドストエフスキイの作品の基本的な性格の一つだ。(p41)