陸と海の対立

『陸と海 世界史的な考察』カール・シュミット

 陸と海が根本的に対立するものであることは、昔から語られてきたことだが、一九世紀の終わり頃になってもなお、当時のロシアとイギリスの緊張関係を[陸の]熊と[海の]鯨の戦いとして描くことが好まれていた。この場合には鯨は、神話で語られる巨大な魚であり、海獣リヴァイアサンである。これについてはいずれ詳しく説明することにしよう。熊というのは、陸地に棲む多数の動物を代表する象徴的な生き物である。いわゆるカバラ学者の中世的な解釈によると、世界史は巨大な鯨であるリヴァイアサンと、陸の巨大な獣であるビヒモスの戦いで織りなされている(ビヒモスは雄牛とも象とも考えられた)。このリヴァイアサンとビヒモスは、「ヨブ記」に由来する(第四〇章と四一章)。
 カバラ学者たちによると、ビヒモスはリヴァイアサンをその角や歯で引き裂こうとするが、反対にリヴァイアサンはその鰭によって、この陸棲の動物ビヒモスの口や鼻を覆って、食べることも呼吸することもできなくしようとする。このリヴァイアサンの行動は、海の国が陸地の糧道を断って飢えさせることで、陸の国を封鎖する様子をありありと描いたものだが、こうした描写は神話的なイメージによらなければ表現できないものだろう。このようにして、戦いあう二つの国は、たがいに相手を殺しあおうとするわけだ。
 しかしカバラ学者たちがさらに説明しているところによると、ユダヤ人は千年ごとに、「リヴァイアサンの饗宴」を厳かに祝うという。これについてはハインリヒ・ハイネが有名な詩で歌っているとおりである。このリヴァイアサンの饗宴の歴史的な解釈に関してもっとも頻繁に引用されるカバラ学者は、イサーク・アブラヴァネルで、この学者は一四三七年に生まれ、一五〇八年に亡くなっている。当時は大発見時代で、彼は最初はポルトガル王国の王室会計主任をつとめ、次にカスティリア王国の王室会計主任になり、一五〇八年にヴェネチアで亡くなったときには有名人だった。彼は世界とその富についてよく知っていたし、自分の語ることもよく弁えていたのだ。(p38)