軽薄にすぎる表現

『真実が揺らぐ時』トニー・ジャット

 そして今日、りっぱなコラムニストたちが、フランスは合衆国の意志を妨害したかどで、安全保障理事会から追放されるべきだと要求しており、彼らは読者たちに、もしフランスに任せていたら「ほとんどのヨーロッパ人はいまごろドイツ語かロシア語をしゃべっていることだろう」と念を押している。もう少し歯に衣を着せない媒体の書き手たちは、ノルマンディ上陸作戦開始日のことを忘れてしまったことに対して「フランス人をまとめてぶっとばしてやりたい」と思っている。「アメリカの若者たち」が彼らの救助にやってきたときに、フランス人はどこにいたのか? 最初はヒトラーから、そして今サダム・フセイン(「同じくらいに下劣な暴君」)から? 「隠れていたのだ。怖じ気づいて。弱虫万歳!」 フランスは「臆病者たちのヨーロッパのコーラス」に参加している。新しいバンパー・ステッカーによれば、「まずイラク、次はフランスだ」というわけだ。
 アメリカによるフランスの中傷は、コリン・パウエルが最近登壇した際に、趣味の悪い反フランス的なジョークが公然と交わされた合衆国の国会において、あからさまに推奨されているのだが、それはフランスではなく、アメリカの格を下げている。……しかし、「降伏するサル」(サレンダー・モンキー)としてのフランス人というのは、ジョン・ウェインからメル・ギブソンまで、自己満足的な戦争映画によってマリネ漬けになってきたアメリカの評論家が使うにしても少々軽薄にすぎる表現である。
 フランス人がその最初から最後まで戦った第一次世界大戦では、フランスはアメリカがこれまで戦ったすべての戦争で失った数の総計の三倍の兵士を失った。第二次世界大戦では、一九四〇年五月から六月にドイツ軍を阻止したフランス軍の六週間での死者は一二万四〇〇〇人、負傷者は二〇万人であり、これはアメリカの朝鮮戦争ヴェトナム戦争での死者・負傷者の総計よりも多い。ヒトラーが一九四一年一二月にアメリカを戦争に引きずりこむまでは、ワシントンはナチス政権と良好な外交関係を保っていた。その間、アインザッツグルッペンが六ヵ月のあいだ東方戦線でユダヤ人を虐殺し、占領下のフランスではレジスタンスが活動していたというのに。(p280)


 筋肉の膨らみすぎたアメリカが、敵対的な国際環境において、かつてそうであったよりも強くなっているのではなく、弱くなっていると考えるのにフランス知識人である必要はない。アメリカはまた好戦的らしく見える度合いが高まっている。しかし、アメリカが何になろうとしているのかが重要なのだ。国際政治に重要なのはときに善悪であるが、つねに重要なのは軍事力である。合衆国は相当な軍事力を有しており、世界の国々は合衆国が味方であることを必要としている。もし合衆国が単独行動主義的な予防的戦争とナルシスト的な無関心のあいだで揺れていて予測しがたいようだと、それは世界的な災難となるであろう。このために、国連において多くの国が、彼らの指導者の私的な懸念がどのようなものであろうと、合衆国政府の望みを是が非でも叶えようとしたのである。(p306)


 ☆8 フランス人、またはフランス軍隊を揶揄する差別用語。全文は「チーズを食べて降伏するサル」。一九九五年に放映された、風刺アニメ番組『ザ・シンプソンズ』で登場した表現であり、とりわけイラク戦争に対するフランス国民の反戦運動が盛んになると、アメリカの評論家なども盛んに使用するようになった。(p532)