国民と市民法

『法をめぐる人と思想』八木鉄男 深田三徳 編著

 ホッブズにおける個人と国家 有馬忠

 国民と市民法

 すでにみたように国民はすでに主権設立のさいに自然権を放棄し、以後、自己防衛権は有しているものの主権者のあらゆる行為に抵抗する自由を失うことになる。ホッブズによれば、「コモンウェルスの国民はすべて市民法服従することを契約した」のである。

 自然的権利、すなわち人間の自然的自由は、市民法によって縮小され、また抑制されるであろう。否、法制定の目的はそもそもそうした抑制にほかならない。そして、それなしには、いかなる平和もありえない。法が地上に持ちこまれたそもそもの理由は、個々人の自然の自由を制限し、たがいに相手を害わず、むしろ助けあい、共同の敵にたいしては結束しうるような方法をとることにほかならなかったのである。

 こうして国民はかつて有していた自然権に制約を受けることになるが、コモンウェルスにおいては、「法律が不問に付したあらゆる種類の行為において、人間は理性が自分にとってもっとも有利だと示唆することを行なう自由を持つ」とホッブズはいう。
 国民の自由は、主権者が彼らの行為を規制したさいに、不問に付したことがらにのみある。すなわち売買もしくはたがいに契約を結ぶ自由、あるいは自分自身の住居や食事、生業の選択、さらに子どもを適当であると考えるしかたで教育すること、およびそれに類する自由である。(p29)