第一の自然権

『近代自然法批判』ヘーゲル

 ヘーゲル自然法論文」の政治学的解読  松富弘志

 ところで、このような意味での人間の根本的被造性に帰属するものとして「情念」、すなわち愛好と不快、欲望と嫌悪、あるいは今日フロイドが欲動と呼んでいるものなどがあげられる。そして、こうした情念のなかでもっとも強力な根源的欲動は、自己保存の欲動とその反対物つまり死の恐怖である。このような人間の根源的欲動は彼の根源的権利と同一である。かくて第一の自然権は自己保存の権利であり、したがって必然的に自己保存に必要な手段(所有)への権利である、ということになる。「各人にとって第一の善は自己保存であり、すべての悪のなかで第一位を占めるのは死である」というのが、こうした言説の中心原理である。その結果、社会のなかで実現されるべき権利(法)を演繹する場合、この理論にとって重要なことは、人間の第一の基本権とそこから導き出される基本権をできるだけ広く持続的に維持し保証する社会秩序を考えることである。そしてこうした社会秩序が生じるのは、例えばホッブスの場合、万人の万人に対する戦いを万人に対する万人の保護に転換するときであり、万人の意思を一つの意思に結びつける「偉大なリヴァイアサンの生成」、「可死の神の生成」のときである。(p130)