国家緊急権

『演習ノート 憲法〔改訂版〕』浦田賢治 編

 国家緊急権

 戦争・内乱・経済恐慌・大規模な自然災害などにより、国家の存立が脅かされるような非常事態(国家緊急事態)に立ちいたった場合に、それに対処し、あるいは原状回復を行うために、通常の場合と異なる統治支配の手段・方法が採用される場合がある。このような異常の際の、例外的かつ特殊な国家の権力行使を根拠づける法観念が、国家緊急権とよばれる。
 国家緊急権の発動があると、通常の場合に国家の権力行使を制限する国民の基本的人権保障は、その全部または一部が停止され、また国家の立法・行政・司法の各機能が一部機関(行政機関や軍事機関)に集中化される。したがって、基本的人権の保障と権力分立制の採用を内容とする立憲主義憲法は、国家緊急権の発動によって停止を余儀なくされる。この意味で、立憲主義を守るために立憲主義を破らざるをえないとすることを内容とする国家緊急権の承認は、きわめて重大な問題をはらむことになる。
 国家緊急権には、まず、それの制度措置などを憲法上に規定した明文の国家緊急権がある。憲法上に明文化された国家緊急権は、当該憲法全体の枠組みのなかで緊急権の行使を秩序づけることを目指すものといいうる。この限りで、それは憲法内的な国家緊急権とよばれる。他方で、極度の非常事態において、憲法の一切の枠や授権を越えて超憲法的な非常措置がとられる場合がある。このような場合の緊急権は、不文の国家緊急権とよばれている。また、憲法上に制度化されていないという意味で、憲法外的な緊急権(「超憲法的緊急権」)ともよばれる。(p26)