立案者たちの憲法の非民主的な要素

アメリ憲法は民主的か』ロバート・A・ダール

 立案者たちの憲法の非民主的な要素

 奴隷制 第一に、この憲法奴隷制を禁止せず、禁止する権限を議会に与えもしませんでした。実のところ、奴隷制について妥協がなされた結果、議会が一八〇八年まで、奴隷輸入を禁止する有効な権限を与えられなかっただけではありません。道徳的に厭わしい制度の、道徳的に最も不埒な副産物である逃亡奴隷法に対して、この憲法憲法上の強制力を与えたのです。逃亡奴隷法によれば、奴隷は自由州に逃げおおせても、奴隷保有者のもとへ戻されることになっていました。奴隷はまだ保有者の財産だから、というわけです。奴隷制が廃止されるまでに四分の三世紀もかかり、血みどろの内戦が必要だったという事実こそは、立案者たちの文書を神聖なものと見なすべきかどうか、私たちに疑わせるに足るものです。

 選挙権 第二に、この憲法は選挙権を保障せず、選挙資格を州の決定に委ねました。それは、人口の半数を占める女性と、アフリカ系アメリカ人や先住民を排除することを、暗黙の前提としていました。女性が投票権憲法によって保障されるまでに一世紀半を要したことは、ご存じの通りです。そして、アフリカ系アメリカ人投票権を保障する法を通過させるため、少数の州が持っていた事実上の拒否権を大統領と議会が撃破するまでに、ほとんど二世紀を要したのも周知の通りです。

 大統領選挙 第三に、行政権限は大統領に委ねられていますが、立案者たちの意図とデザインによれば、大統領の選出は、国民の多数派による統制と議会による統制の双方から隔離されなければなりませんでした。これから見るように、そうした目的を達するために、立案者たちがデザインした主たるもの、つまり、例外的なまでの知恵と徳とを備えた人々によって構成される大統領選挙人団が、国民世論に左右されずに最高権限者を選ぶというやり方は、のちのアメリカ国民の民主主義への高まる衝動に共感する指導者たちによって、とりわけジェイムズ・マディソンその人によって、あっと言う間に歴史のゴミ箱に投げ入れられてしまうことになります。民主的な共和国で政治がどのような形をとるかに関して、立案者たちが予見能力を持たなかったことを、彼ら自身が示したものとして、これほど鮮やかな例はないと言えるかもしれません(後の章で、選挙人団については、もう少し述べます)。(p22)