今に生きる労働政策

ナチスの発明』武田知弘

 今に生きる労働政策

 ナチスは労働問題に関しても最先端を行なっていた。
 ナチスは世界に先駆けて8時間労働(1日の労働時間を8時間以内に抑える)を法的に実施している。この法律は、現在のドイツにも生きている。
 また、ナチスは労働者の通勤時間を30分以内にするように指導していた。そのためベルリンのほとんどのサラリーマンが、昼食を家に帰って食べていたという。
 さらに、時差出勤も採用されていた。今でいうところのズレ勤制で、出勤時間を朝7時から30分ずつスライドさせたのだ。この制度によって、朝早くに出勤した人は午後4時に退社でき、夕方の買い物もすることができた。
 労働者の福利厚生の制度も充実していた。
 従業員が100名以上の会社では、格安で利用できる社員食堂の設置が義務付けられた。たとえばハインケル社では、原価の半額で食事を提供していた。バイキング形式で、ケーキやコーヒーもあったという。
 大きな工場には、休憩所や食堂、個人ロッカーのある更衣室、目を休める緑地帯診療室、手術も可能な応急手当室、X線室、電気マッサージ室、人工光線浴室、温水冷水浴室、スティーム浴室などもあった。
 また労働者の住宅についても、充実した制度を持っていた。一定規模以上の会社は、労働者のために住宅を用意することが義務づけられた。
 労働者は会社に家賃を払うが、一定の額を払い終えるとその住宅は労働者に譲渡される仕組みになっている。会社が労働者住宅を建てられない場合には、周辺の賃貸住宅を借り上げて、労働者に安く貸し出すことも決められていた。
 ドイツの強力な共産主義者が、ナチスの登場と共に消えうせたのは、ゲシュタポのせいばかりではないのである。(p134)