中世の再評価

『性と暴力のアメリカ』鈴木透

 また、十九世紀に性道徳が社会でいっそう強く意識されるようになった背景には、産業革命への戸惑いから、西洋世界で中世が再評価されたことも関係していた。ルネサンス以降の近代では、中世は「暗黒時代」とみなされてきたが、産業革命によって貧富の格差が広まり、都市の生活環境の悪化や労働者の疎外といった問題が顕在化してくると、近代以前の中世のほうがむしろ優れていたという考え方が登場してくる。こうした中世ブームは、イギリスなどヨーロッパ諸国だけでなく、中世を体験していないアメリカにも波及した。
 中世に対する郷愁は、当然ながら中世の騎士道精神やマリア信仰に対する関心を呼び起こした。名誉を重んじる騎士たちにとって、純潔は欠くことのできない重要な美徳であった。また、こうした中世的精神では、女性は守られるべき存在であるとともに、崇拝の対象でもあった。つまり、中世を理想化することは、禁欲主義的で女性に対する礼節を重んじる気風を強化することになったのである。(p27)