最強理論=自然農法+小機械(現状における最善)

『氷川清話』勝海舟 講談社学術文庫

 恐ろしい人物二人

 おれは、今までに天下で恐ろしいものを二人見た。それは、横井小楠西郷南洲とだ。
 横井は、西洋の事も別に沢山は知らず、おれが教へてやつたくらゐだが、その思想の高調子な事は、おれなどは、とても梯子を掛けても、及ばぬと思つた事がしば〱あつたヨ。おれはひそかに思つたのサ。横井は、自分に仕事をする人ではないけれど、もし横井の言を用ゐる人が世の中にあつたら、それこそ由々しき大事だと思つたのサ。
 その後、西郷と面会したら、その意見や議論は、むしろおれの方が優るほどだツたけれども、いはゆる天下の大事を負担するものは、果して西郷ではあるまいかと、またひそかに恐れたよ。
 そこで、おれは幕府の閣老に向つて、天下にこの二人があるから、その行末に注意なされと進言しておいたところが、その後、閣老はおれに、その方の眼鏡も大分間違つた、横井は何かの申分で蟄居を申付けられ、また西郷は、漸く御用人の職であつて、家老などといふ重き身分でないから、とても何事も出来まいといつた。けれどもおれはなほ、横井の思想を、西郷の手で行はれたら、もはやそれまでだと心配して居たに、果して西郷は出て来たワイ。(p68)