ナロードニキに対する批判

『世界資本主義Ⅰ』岩田弘

 大きくふり返れば、人類が定住的な農業生活を開始して以来の農業生産の絶対的な維持存続条件は、繰り返し農地として使用する土地の地力や豊度の維持再生産であった。そしてそのために人類は、一定の地域の河川の改修や灌漑・排水施設の建設を共同的に遂行し、森林、草地、耕地、休閑地などの計画的な配分を共同的に組織しなければならなかった。さらにはまた豊作物の種類や栽培方法、家畜の種類と数や飼育方法を共同的に規制しなければならなかったのである。そして中世以来のヨーロッパの農村共同体の最重要な社会的機能は、こうした土地地力の維持再生産のための地域的共同組織をなすという点にあった。
 たしかに、1861年農奴解放によるロシアの土地所有関係の近代化・私有権化は、こうした農村共同体関係の商品経済的分解を加速したが、たんにそれを部分的に解体し変形したにすぎなかった。というのも、それなしには農業的再生産の維持存続は不可能だからである。
 土地の共同割替や共同使用を特徴とするロシアのミールは、こうした農村共同体関係の一構成部分であり、ナロードニキの決起を促したのは、その商品経済的解体に対する危機意識であった。そしてこうしたナロードニキの真摯な決起に対するロシア・マルクス主義の批判は、資本主義を飛び越えてミールを基盤にするコミュニズムを目指すアナクロニズム集団であるという嘲笑であった。だがこうした嘲笑は、かえって、彼らの浅薄な近代主義の正体――農村共同体の人類史的な役割に対する無感覚性――を暴露するだけであろう。(p55)