われわれは平和を愛する国民だ

『帝国を壊すために』アルンダティ・ロイ

 ブッシュ大統領空爆開始を通告するさい、こうおっしゃいましたね、「われわれは平和を愛する国民だ」。アメリカお気に入りの特命大使、トニー・ブレアさん(ちなみに、この人にはイギリス連合王国の総理大臣という肩書きもあるそうです)も、オウムのように繰り返す、「われわれは平和を愛する国民だ」と。
 というわけで、わかりましたよ。豚とは馬のこと。女の子は男の子。戦争とは平和のことである。
 数日後、FBI本部で演説したブッシュ大統領――「これこそアメリカ合州国が求める使命だ。アメリカは世界でもっとも自由な国だ。この国は根本的な正義の理念に基づいているのだ。憎悪を拒絶するのだ。暴力を拒絶するのだ。殺人を拒絶するのだ。悪を拒絶するのだ。そしてわれわれは疲れを知らないのだ」。
 アメリカが第二次世界大戦後、戦争をした国――それに空爆した国――のリストを挙げてみましょうか。中国(一九四五―四六年、一九五〇―五三年)、朝鮮(一九五〇―五三年)、グアテマラ(一九五四年、一九六七―六九年)、インドネシア(一九五八年)、キューバ(一九五九―六〇年)、ベルギー領コンゴ(一九六四年)、ペルー(一九六五年)、ラオス(一九六四―七三年)、ヴェトナム(一九六一―七三年)、カンボジア(一九六九―七〇年)、グレナダ(一九八三年)、リビヤ(一九八六年)、エル・サルバドル(一九八〇年代)、ニカラグア(一九八〇年代)、パナマ(一九八九年)、イラク(一九九一―二〇〇一年)、ボスニア(一九九五年)、スーダン(一九九八年)、ユーゴスラヴィア(一九九九年)。そして今、アフガニスタン
 たしかに「疲れを知らない」ですねえ――この、世界でもっとも自由な国家、は。でも、この国が維持する自由とはどんな自由でしょう? 国境の内では、言論、宗教、思想の自由。芸術的表現の、食事の習慣の、性の好みの自由(セックスについては、まあ、ある程度までですけど)。ほかにも多くの模範的な、すばらしい事だらけ。ところが国境の外では、支配する自由、侮辱する自由、屈従させる自由――それも多くの場合、アメリカのほんとうの宗教である「自由市場」の御用に供するための自由。アメリカ合州国政府が「無限の正義作戦」とか「不朽の自由作戦」とかを神聖なものとして推し進めると、わたしたち第三世界の人間は、恐怖に打ち震えざるをえないのです。なぜならわたしたちは、誰かのための「無限の正義」が、ほかの人にとっては「無限の不正義」となることを知っているから。誰かにとっての「不朽の自由」が、ほかの人には「永続する屈従」を意味するのだから。(p29)