暴力と戦争

『帝国を壊すために』アルンダティ・ロイ

 「テロと戦う国際同盟」とは、結局、世界のもっとも富裕な国々が徒党を組んでいるにすぎない。これらの国々だけで、世界のほとんどすべての兵器を製造し売っている。大量破壊兵器――生物化学兵器核兵器――をいちばん大量に溜め込んでいるのも、この国々。ほとんどの戦争はこれらの国々が起こし、近代の歴史において、住民虐殺、奴隷支配、民族浄化、人権侵害を繰り返してきたのも、数え切れない独裁者や専制君主を支持し、兵器や資金を与えてきたのも、こうした国々。彼らだけが暴力と戦争という宗教を信仰し、神のように崇めてきたのだ。タリバンだってたしかに罪深いかもしれないけれど、どう見たってこれらの国々の残虐さにはかなわないでしょう?
 タリバンとは、冷戦の反動のなかで、廃墟とヘロインと地雷のるつぼから産まれてきた鬼子だ。その最年長の指導者だって、四十代の前半。彼らの多くが、目や腕や足を失った身障者。彼らは、戦争が傷を負わせた共同体、戦いが破壊した社会のなかで育ってきた。ソ連アメリカが寄ってたかって、二〇年以上にわたり、四五〇億ドルに相当する兵器や弾薬をアフガニスタンに注ぎこんできた結果が、これ。
 最新兵器だけが、この中世そのままの社会に侵入してきた近代の断片である、と言っていい。こうした時代に育った少年たちは――その多くが孤児です――おもちゃとして銃をもて遊び、家庭生活に守られた安らぎも知らず、女性とともに過ごした経験さえない。そんな彼らが大人になって、支配者タリバンとして、女性を殴打し、石打ちにし、レイプし、残酷に迫害する。彼らはそうするほかに、どうやって女性と付き合ったらいいか分からないのだ。戦争に明け暮れた年月が、彼らから優しさを奪い、人間的同情や親切心とは無縁の存在にしてしまった。周囲にふりそそぐ爆弾の雨という打楽器の音に合わせて踊ることしか知らない若者たち。彼らは自らの奇怪さに対する復讐を、自分の身の回りの者たちに向けて果たしているのではないだろうか。
 ブッシュ大統領にはもうしわけないですけれど、世界の人々がタリバンアメリカ合州国政府との、どちらかを選ぶ必要などあるのですか? 人間の文明が創る美――わたしたちの芸術、わたしたちの音楽、わたしたちの文学――そのすべては、このような原理主義的なイデオロギー上の二極を越えたところに存在する。世界中の人々がひとつの宗教に染め上げられる可能性など、世界中の人間が中産階級の消費者となるのと同じく、ほとんどあり得ないことなのに。(p31)