スペイン音楽にみるアラブ音楽の影響

『ジャズの歴史物語』油井正一

 スペイン音楽にみるアラブ音楽の影響

 スペイン音楽におけるアラブ音楽の影響はかなり大きい。試みに『標準音楽辞典』(音楽之友社刊)の「スペイン音楽」の項を開くと、「……しかし、アラビア人が占領するはるか以前に、すでに例えばセビーリャやコルドバではペルシャ人、ギリシャ人、ビザンツ人らの数多い音楽家たちが芸を競っていた。それ故スペイン音楽の特性を、ただアラビア音楽にのみ由来すると考えるのは誤まりであろう……」(野村良雄氏執筆)とある。
 この解説を裏返すと、「スペイン音楽にはアラビア音楽の影響が実に大きい。だがそれだけだと考えては誤まりだ」と読めるではないか。
 西洋史をひもとくならば、紀元七一一年アラブ人はヘレスの戦いに西ゴートを破り、イベリア半島に攻め入り一四九二年まで、実に七百八十一年にわたって、この地方をイスラム教徒の占領下においたことがわかる。チャーリー・マリアーノが指摘したのはこのことであった。マーシャル・スターンズ博士はこう書いている。
 「(北アメリカの)各地植民地はそれぞれの母国の文化を移入していたから、買われた奴隷は、ご主人の出身国に応じて、ちがった音楽、宗教、生活様式に馴染むこととなった。たとえば、イギリスの清教徒とラテンのカトリック教徒に使われた奴隷とでは、ちがってきた。ラテン植民、とくにスペイン人の音楽はよりリズミックであった。これは多分中世に北アフリカからやってきたムーア人がスペインを占領したことによって、スペイン音楽にインプロヴィゼーションと複雑なリズムが与えられたのであろう。今も残っているよい例はフラメンコである」(p321)