アラブ音楽に内在するニグロ音楽の影響

『ジャズの歴史物語』油井正一

 アラブ音楽に内在するニグロ音楽の影響

 アラビア人は、おなじ有色人種でもアフリカのニグロではない。しかしアラビア音楽にはその初期にニグロの血を引いたすくなくとも三人の音楽家がいたという。これはアーネスト・ボーネマンの説である。

 ①マベット・イブン・オウハブは、アフリカのニグロで、ダマスカスのイエジッド・カリフ朝の宮廷歌手であった。六二八年歿。
 ②預言者マホメッドと共にメッカからヤスレブ(メディナ)に逃れ六四一年ダマスカスで死んだビラルは、アフリカのニグロでイスラム教徒に祈りの時を告げるアッザーン(Adhan)の作曲者は彼であるといわれている。
 ③三人のうち最大の音楽家といわれたイブラヒム・イブン・アルマーディは、アフリカの黒人奴隷シクラの子で、父はマホメッドの曾祖父ハーシムの血をひいていた。父の名はカリフ・ムハメッド・アル・マーディ。バグダッドのアッバーズ・カリフ朝の貴族である。七七九年七月に生まれ、リュートと歌に長じ、八三九年に死んだ。

 こうしたイスラム音楽の巨人を通してだけでなく、アラブ、アフリカン・ニグロ、スペイン人の日常接触によって、アフリカ的リズム、メロディ、音色、形式は、スペインの民族音楽の中に、深く静かに浸透して行った。(p322)