敗戦の歴史

『もう一つの戦後史』江藤淳

 それはひとつには、敗戦の歴史をたどり直すという辛い仕事を自分に課した者として、一人の人間に許されている範囲で、できるだけ公正を期さなければならないという、私自身の心がまえの問題でもあった。どんな歴史家といえども、神のごとき公正さをよそおうことはできない。まして私が、歴史記述に着手しているというより、その前提の一部を形作るにすぎぬような、初歩的な作業を開始したばかりだという現状では。(p69)