先入主

『もう一つの戦後史』江藤淳

 だが、だからといって私は、戦後の一般的風潮にしたがって、陸軍だけが悪者だったという先入主に、無条件で追随するわけにはいかない。私の身内に、海軍に縁の深い者が多いという行きがかりを顧みれば、なおさらのことである。クリオの神の前に跪く者は、あたう限り己れを空しくして聞えて来るあらゆる声に耳を傾けなければならない。それだけの手つづきを経なければ、私は日本がなぜ敗れなければならなかったのかという根本問題について、そうたやすく自分を納得させることができないからである。(p69)