自分で見て記事を書く人ではなかった

『「南京事件」の総括』田中正明 小学館文庫

 もう一人、「朝日」の大先輩でやはり南京特派員であった足立和雄氏は畠中氏にこう答えている。
 「私は南京大虐殺なんて見ていません。あなた(畠中)がどういう立場の人か存じませんが、南京大虐殺の証言はできませんヨ」
 きつくそう断わられたが、押問答の末、立場をはっきりし、お目にかかった。畠中氏はかねて疑問に思っていた "虐殺目撃者" として名のり出た「朝日」の記者、今井正剛氏について尋ねてみたそうである。足立氏は一言のもとに、今井氏をこう評したという。
 「あれは自分で見て記事を書く人ではなかった。人からきいたことを脚色するのがうまかった」
 婉曲に彼の『文藝春秋』で発表した二万人の虐殺を見たかのごとき作文など怪しいものである旨示唆したのである。はからずも同じ「朝日」の森山喬氏が筆者に語った今井評と一致する。森山氏も彼の虚言を立証している。なぜなら当時彼と一緒に南京で寝室を同じくして取材していたのに、そんな話はついぞ聞いたことがないというのである。(p113)