夫婦別姓論議

『妻も敵なり』岡田英弘

 中国人は一歩表に出れば、敵だらけだと思っていると書いたが、実のところは、それ以上に厳しい世界に住んでいる。彼らは家庭に帰っても、気を緩めることができない。何しろ、男にとって最大の敵は、自分の妻であるからだ。
 妻ほど自分の私生活を知りつくしている人間はいない。つまり自分の弱点を最も握っている危険人物は、妻なのである。
 なぜ、中国において夫婦間が敵対関係になるのか――その理由はいくつかあるが、その最大の原因は中国社会が父系社会であることにある。
 ご存じのように、中国では結婚しても女性は姓が変わらない。今の日本では夫婦別姓論議がさかんだが、中国の場合、女性の姓が変わらないのは、彼女の地位が高いからではない。結婚しても姓が変わらないというのは、要するに、いつまで経ってもよそ者扱いされているということである。
 極論を言えば、中国において女性とは、跡継ぎを作るための道具に他ならない。もちろん、この場合の跡継ぎとは、男の子のことである。女の子を産むようでは問題外である。
 なぜそこまで男の子にこだわるのかというと、中国では男系の子孫だけが死んだ人の魂を祀ることができるからである。そうでない者、つまり娘がいくら供物をしても、それは死者の口に届かない。そのため、男系の子孫が絶えた家では、死者は永遠に腹を空かせていなければならない――だから、男の子を産むかどうかが「家」の最大の関心事となるのである。(p72)